技能者の人手不足や働き方の改善が、長らく課題となっている建設業界。
そこで働くすべての人にとって、キャリアパスや保有する技術の可視化は非常に重要です。

そこで建設業団体と国交省が官民一体となって推進し、「建設キャリアアップシステム(CCUS)」と呼ばれる新たな仕組みが設けられました。
このシステムは、技能者の技術や経験を見える化し、業界全体の質の向上を目指すために導入されたものです。

本記事では、建設キャリアアップシステムの概要、登録義務の有無、メリット・デメリット、さらに、具体的な登録手順を解説します。

1.建設キャリアアップシステム(CCUS)とは

「建設キャリアアップシステム」とは、建設現場での就業履歴などの情報を横断的に登録・蓄積して活用する仕組みのことです。

英語では「Construction Career Up System」と訳され、略して「CCUS」とも呼ばれています。

技能者が登録申請して登録料を支払うと、ID付きの「CCUSカード」が交付されます。
そのカードを使って、現場の就業履歴や保有資格、講習の受講履歴などを電子的に記録していきます。

CCUSの目的は、主に以下の3つです。

  • CCUSに登録されている情報を閲覧できるようにすることで、技能者の能力・経験などに応じた適正な処遇改善につなげる
  • 技能者の能力・経験を4段階で評価することで、レベルアップを見通せるようにして、若手人材が明確なキャリアパスを描きやすくする
  • 優秀な技能者を雇用し、育成体制も整っている企業を可視化して、業界全体が健全に成長する環境をつくる

CCUS加入は義務化されていない

2024年6月時点においてCCUSへの加入は義務化されておらず、国交省のWebサイトによると「普及を推進している」段階です。
CCUSの公表当初は2023年度中の登録義務化を目指していましたが、現時点で登録や加入は任意であるため「利用していないと法律違反となる」というわけではありません。

ただし例外的に、外国人技能実習生を受け入れる場合は、外国人を受け入れる事業者とその外国人本人は、建設キャリアアップシステムの登録が義務付けられています。

なお、2024年1月末時点で、136.2万人もの技能者がCCUSに登録しています。
2022年の労働力調査によると建設業技能者数は302万人であることから、すでに3分の1以上が利用していると推測できます。

今後、事業者や元請事業者、技能者を含め、すべての工事関係者にとってCCUSのメリットが大きいことがわかれば、任意であってもさらに利用拡大していくと考えられます。

参考:建設キャリアアップシステムの利用状況(2024年1月末)|国土交通省

2.建設キャリアアップシステム(CCUS)のメリット・デメリット一覧表

それでは、建設キャリアアップシステム(CCUS)を利用するメリット・デメリットを事業者側、技能者側の観点から見ていきましょう。

メリット デメリット
事業者
  • 経営事項審査の加点措置となる
  • 技能者の採用時に技能や能力を確認できる
  • 現場管理の効率化につながる
  • 5年ごとに事業者登録料が必要となり、企業規模に応じて6,000円〜240万円の更新料金を支払う
  • 毎年、管理者ID利用料を、1IDあたり11,400円支払う必要がある
  • 元請事業者

    • 公共工事の加点措置となる
    • 技能者に独自のメリットを提供できる
    • 事務作業の負担が軽減する <元請事業者>
    元請事業者

    • 1回10円の現場利用料が負担になる
    技能者
    • 能力や経験を蓄積できる
    • 能力や経験に応じた処遇改善につながる
    • 建退共で退職金の掛金を正確に積み立てられる
    技能者の登録料として、簡略型で2,500円、詳細型で4,900円が必要

    次章でそれぞれの詳細について解説します。

    3.建設キャリアアップシステム(CCUS)のメリット

    建設キャリアアップシステム(CCUS)を利用することで、複数のメリットがあります。

    1. 事業者全般のメリット
    2. 元請事業者のメリット
    3. 技能者のメリット

    3つの立場から見てみましょう。

    ①事業者全般のメリット

    まず、事業者全般にとってのメリットを紹介します。

    1)経営事項審査の加点措置となる

    1点目は、公共工事への入札で有利になる点です。CCUSの導入は、経営事項審査の加点措置となります。

    経営事項審査とは、公共工事の受注を目指す建設業者が、必須で受ける評価制度のことです。直近のすべての公共工事の現場でCCUSを導入していると「10点」、さらに民間工事を含めていると「15点」の加点となります。

    2)技能者の採用時に技能や能力を確認できる

    2点目は、技能者を採用するときに、能力を確認できる点です。

    CCUSには技能者の本人情報(連絡先や職種など)だけでなく、就業履歴や保有資格も記録されるため、登録が済んでいれば採用時に簡単に確認できます。そのため優れた技能者を雇用するきっかけとなるでしょう。

    また協力会社を探すときにも、優れた技能者を雇用している事業者の選定に役立つといえます。

    3)現場管理の効率化につながる

    3点目は、現場管理の効率化です。

    CCUSを利用すると、複数の現場における技能者の就業状況などを一元管理でき、人員配置など管理業務の効率化が期待できます。

    また完工後も履歴を可視化できるため、コンプライアンスの確保にもつながるでしょう。

    ②元請事業者のメリット

    次に、元請事業者にとってのメリットを紹介します。

    <公共工事におけるCCUS活用の促進|国土交通省>1)公共工事の加点措置となる
    1点目は、公共工事の加点措置となることです。

    元請事業者によるCCUSの現場利用を促進するために、国直轄の工事をはじめ、都道府県の公共工事ではCCUSの利用状況が加点対象となっています。「民間工事を含むすべての建設工事でCCUSを利用した」「すべての公共工事で利用した」など、条件によって15点、または10点の加点となります。

    国交省によると、2024年2月末時点において、CCUSの利用を義務付けている国直轄の土木工事は54件でした。今後も、加点というインセンティブ措置によって、利用が促進されると考えられます。

    参考:公共工事におけるCCUS活用の促進|国土交通省

    2)技能者に独自のメリットを提供できる

    2点目は、システム利用を通じて技能者に向けて独自のメリットを提供でき、より働きやすい環境づくりに役立つことです。

    たとえば、CCUSカードを現場の入場時にカードリーダーにかざす際、就業履歴をポイントとして蓄積し、そのポイントを電子マネーに還元する仕組みを構築した元請事業者もいます。また、CCUS登録者がCCUSカードを使って自動販売機にタッチすると、飲み物を無料提供する自販機を現場に設置し、飲料代は元請事業者が負担する、といったケースも見られます。

    3)事務作業の負担が軽減する

    3点目は、事務作業の負担を軽減できる点です。

    元請事業者の立場では、現場に関連した事務作業の負担は大きい傾向ですが、CCUSの導入によって作業の効率化を期待できます。たとえば技能者の就業実績の記録や、作業員名簿・施行体制台帳の作成が省力化され、ペーパーレス化にもつながるでしょう。

    ③技能者のメリット

    続いて、技能者にとってのメリットを紹介します。

    1)能力や経験を蓄積できる

    1点目は、能力・経験を蓄積できることです。

    CCUSの登録時に連絡先などの本人情報を入力しておくだけでなく、現場入場の際にCCUSカードをカードリーダーにかざすだけで、就業履歴が自動蓄積される仕組みも利用可能です。

    そのため技能者ひとりひとりはあまり手間をかけることなく、自身の経験を記録できます。蓄積された実績は、転職活動にも活用できるでしょう。

    2)能力や経験に応じた処遇改善につながる

    2点目は、能力・経験に応じた処遇改善につながることです。

    CCUSのシステムによって実績や保有資格などが可視化され、4段階のレベルに分けられるので、レベルにふさわしい処遇が実現されやすいといえます。また、技能者のレベルに応じてIDカードが色分けされるため、車の運転免許証の「ゴールド」「ブルー」「グリーン」のように、スキルの証明にもなります。

    なお、国交省が実施した2022年の労務費調査においてCCUS技能者の賃金実態を分析したところ、4段階のうちレベルが高くなるほど高い賃金が支払われていることが明らかになっています。

    参考:建設業を巡る現状と課題|国土交通省

    3)建退共で退職金の掛金を正確に積み立てられる

    3点目は、退職金の掛金を正確に積み立てられることです。

    CCUSのカードを現場でタッチするだけで、建設業界の退職金制度である「建設業退職金共済制度(建退共)」の掛金を積み立てられるようになります。

    これまでの積み立て方式は、技能者が現場で証紙を受け取って手帳に貼り付けを行う必要がありました。しかし多重下請によって構造が複雑な建設業界では、正確に反映できない点が課題でした。

    そこで就労実績を確実に掛金の積み立てにつなげられるよう、CCUSに記録された就業実績が活用されるようになったのです。

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    4.建設キャリアアップシステム(CCUS)のデメリット

    建設キャリアアップシステム(CCUS)を利用すると、さまざまなメリットを得られる一方で、デメリットもあるといえます。

    1. 事業者全般のデメリット
    2. 元請事業者のデメリット
    3. 技能者のデメリット

    それぞれの立場から見ていきましょう。

    ①事業者全般のデメリット

    事業者は、5年ごとの事業者登録料が必要となります。

    資本金が500万円未満の場合は新規・更新料は6,000円で、500億円以上になると240万円と幅が広く、大きな負担となります。

    出典:建設キャリアアップシステム(CCUS)― 概要・登録編 ―|国土交通省

    さらに、管理者ID利用料(システム上の情報管理費用)を毎年支払う必要があり、1IDあたり11,400円かかります。

    ②元請事業者のデメリット

    元請事業者の立場では、現場でCCUSのシステムを利用するための費用負担が生じます。

    現場利用料として、CCUSカードをカードリーダーにかざして、技能者が就業履歴を記録するたびに1回につき10円が発生します。

    たとえば、70人の現場だと1日にかかる利用料は10円×70人=700円。これが30日間続くと、700円×30日=21,000円の負担となります。

    現場が複数あり、大規模かつ長期の場合は、費用負担が大きくなるでしょう。

    ③技能者のデメリット

    技能者の立場では、登録料として「簡略型」で2,500円、「詳細型」で4,900円が必要です。

    「簡略型」は、技能者の顔写真、連絡先、職種を含む本人情報などを登録します。一方、「詳細型」では、本人情報に加えて保有資格や、表彰履歴などの情報も登録します。

    技能者としての能力を可視化するためには「詳細型」で登録する必要がありますが、費用負担も大きくなります。

    4.建設キャリアアップシステム(CCUS)の申請方法

    ここからは、インターネットを使って建設キャリアアップシステム(CCUS)に申請する方法を解説します。

    ①事業者登録の方法

    以下の表で、事業者が登録する手順を紹介します。

    事業者がCCUSに登録する手順
    1.事前準備 事業者証明書類を準備する。
    建設業許可がある場合はその証明証、ない場合は事業税の確定申告書などが必要。
    加えて、社会保険に加入していることがわかる書類も必要。
    2.インターネットで登録申請 建設キャリアアップシステムのホームページから登録申請する。
    3.支払い 料金を支払う。
    4.登録完了 IDを取得する。

    ②技能者登録の方法

    次に、技能者が登録する手順を紹介します。

    技能者がCCUSに登録する手順
    1.事前準備 本人確認書類、顔写真、社会保険に加入していることがわかる書類、保有資格・研修受講を含む証明書類などを用意。
    2.インターネットで登録申請 建設キャリアアップシステムのホームページから登録申請する。
    3.支払い 料金を支払う。
    4.登録完了 技能者IDとキャリアアップカードを取得する。

    ③一人親方の事業者登録料は無料

    一人親方がCCUSに登録する場合、事業者登録料は無料となります。

    一人親方は、事業者であり技能者でもあるため、どちらの立場での登録も必要です。しかし料金に関して事業者登録料は必要なく、技能者登録料のみとなります。申請時は、この点に留意しておきましょう。

    5.建設キャリアアップシステム(CCUS)とCPDS

    建設キャリアップシステム(CCUS)の他に、経営事項審査には「CPDS」という仕組みも利用できます。

    CPDS(Continuing Professional Development System)とは、「技術者」が講習会などで学んだ内容を記録し、必要に応じて学習履歴の証明書を発行するシステムのことです。ここでいう「技術者」とは、施工計画の作成や工程管理、安全管理などを担当する専門職を指します。具体的には土木施工管理技士などが該当し、現場の監理や技術上の管理を行います。

    一方、「技能者」は、現場で実際に作業を行う熟練工や職人を指します。実際の作業や工法に熟練し、手作業や機械操作などを通じて工事を実施する役割を担う人のことです。

    「CPDS」の加入対象は主に「技術者」で、加入することで講習会の受講記録や学習履歴の証明が可能となります。対するCCUSの対象者は、主に建設業の現場を担う「技能者」です。

    なお、当社「現場サポート」では「CPDS認定研修」を開催しています。以下のページで、建設関連会社を対象としたセミナーについてご案内しています。無料で参加できるので、気軽にお問い合わせください。

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    6.まとめ

    本記事では、建設キャリアアップシステム(CCUS)のメリットとデメリット、登録の手順などを解説しました。

    2024年6月時点では、CCUSへの登録は義務ではありません。

    しかし、事業者の立場では、公共工事入札において加点対象となります。技能者ひとりひとりにとっては、自身の就業履歴や技能、保有資格などの情報を可視化できるなど、さまざまなメリットがあることから、今後普及が進んでいくと考えられます。

    自社の事業規模と費用負担を考慮して、今後に向けて利用を検討してみてください。

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