建設業に従事している人のうち、女性の割合は非常に低いといわれています。その理由として、女性向け設備や制度の整備不足、男性社員からの理解不足などが挙げられます。

しかし、業界で人手不足が長期的な課題となっているなか、「女性ももっと積極的に採用して、活躍してもらいたい」と考えている建設関連会社の責任者も少なくないはずです。

そこで本記事では、建設業における女性活躍のメリット、定着促進のための取り組み事例などをご紹介します。

1.建設業で働く女性の割合

まずは、建設業で働く女性の割合について紹介します。

「一般社団法人日本建設業連合会」の「建設業デジタルハンドブック」によると、2022年における就業者中に占める女性の割合は以下の通りです。

●建設業全体…17.7%
●技能者…2.5%

これに対して、全産業における女性の割合は45.0%であることから、非常に低い割合だといえます。しかし、約10年前の2003年時点と比較してみると、当時の建設業全体の女性の割合は14.7%であったことから、上昇傾向にあるといえます。

参考:建設労働|建設業デジタルハンドブック

2.建設業で働く女性が少ない理由

なぜ建設業で働く女性は少ないのでしょうか。ここでは、3つの理由を解説します。

①トイレ、更衣室などの女性専用設備が整っていない

女性専用のトイレ、更衣室などの設備が整備されておらず、女性が働きにくい職場になってしまっている点が原因の一つです。

女性用トイレや更衣室があったとしても、男性用との距離が確保できておらず、女性が安心して過ごせるスペースがない状況も見られます。

②出産や子育ての支援制度が整っていない

出産・子育てに関する支援制度が整備されていないケースも見られます。職場に女性社員の受け皿がなければ、たとえ採用してもすぐに離職してしまい、定着にはつながりません。

また、制度があったとしても休暇を取りにくい雰囲気が職場内にあると、制度を利用することなく出産を機に離職してしまうと考えられます。

実際、「一般社団法人全国建設業協会」が実施した建設関連会社に対するアンケート調査結果によると、育児休暇の利用実績はわずか15.1%で、84.9%が利用実績はないと回答しています。

制度を設けるだけでなく、女性が「働き続けたい」と思える職場の雰囲気づくりも重要といえます。

参考:【修正版】2022年09月26日【全建】第5回個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会|国土交通省

③男性社員の女性への理解が不足している

男性社員の女性に対する理解が不足しているなど、意識面においても改善が必要だといえます。

たとえば、能力的に無理などと決めつけてしまったり、特別扱いしすぎたりすると、女性にとって居心地が悪くなってしまいます。また、経営層が「募集しても女性からの応募はない」と思い込み、採用活動すら進めていない可能性もあるでしょう。

3.建設業で女性の活躍を必要としている理由

ここからは、現在の建設業において女性の活躍が必要な理由を見ていきましょう。

①人手不足の解消につながる

女性が活躍できる場を設けることで、人手不足の解消につながります。

現在、建設業全体で深刻な人手不足に陥っています。その理由は、過酷な労働環境ゆえに就業者数が減少していること、若手不足、従事している人の高齢化など、複数の要因があるからです。

このような人手不足を背景に、女性人材の獲得・定着に力を入れる建設関連会社が増えています。

建設業の人手不足の現状と原因、対策とは?データを用いて解説

②女性視点を業務に取り入れられる

家事や子育てで培った女性視点の細やかな気配りの経験を業務に取り入れることで、新たな変化を期待できる可能性があります。

たとえば、以下の業務が向いていると考えられます。

●効率的なスケジュール管理
●小さな危険も見逃さない安全管理
●設計・インテリア

細部まで注意を払うことができる人材を採用することで、顧客満足度アップや建設現場の労働環境の改善、安全性向上につながると期待できます。

③高いコミュニケーション能力がある

一般的に女性は、高いコミュニケーション力を持っている人が多いと考えられています。採用支援事業を手掛ける「株式会社リブ」がキャリア女性を対象に実施した調査リリースによると、「女性リーダーに期待すること1位は、コミュニケーション力」という結果が明らかになっています。

参考:【調査リリース】キャリア女性が「女性リーダーに期待すること」コミュニケーション力と‟3K‟(細やかさ・公正さ・決断力) | 株式会社LiB(リブ)

高いコミュニケーション能力を持つ人材を新たに採用することで、日々の業務の現場に変化がもたらされる可能性もあるでしょう。

たとえば、現場へ伝達事項や指示出しを行う場合に、

●わかりやすく伝えられる
●やわらかな物腰で話せる
●周囲に対して共感力や傾聴力を発揮できる

など、現場の雰囲気が良くなる場合があります。

建設業では、社内の従業員だけでなく、複数の協力会社と関わることになります。高いコミュニケーション能力を持つ人材は、プロジェクトを円滑に進めるうえで重宝されます。

④企業イメージが向上する

建設関連会社で女性活躍の実績を確立すると、企業イメージの向上につながります。

建設業は「過酷」「残業時間が長く、労働条件が悪い」といったイメージがあります。しかし、休暇制度や労働環境を整備し、女性を積極的に採用して定着率も高まれば、「働きやすい会社」と評判になる可能性があるでしょう。

そのような会社が増えれば、建設業全体のイメージ改善にもつながると考えられます。


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4.建設業における女性活躍推進のための取り組み

ここからは、建設業において女性の活躍・定着を推進するための取り組みを具体的に見ていきましょう。

①建設キャリアアップシステム

「建設キャリアアップシステム(CCUS)」とは、建設業団体と国土交通省が官民一体で推進している新たな制度です。技能者の技術や経験を見える化し、業界全体の質の向上を図ることを目的としています。

建設キャリアアップシステムを活用することで、女性技能者と事業者のどちらにもメリットがあります。

女性技能者の立場では、出産・育児・介護などで休業してもキャリアがリセットされず、復帰後は適正な処遇で業務を再スタートできます。

また、事業者は、システム内で女性技能者の過去の実績やスキルをすぐに確認でき、スムーズに優秀な人材を確保できるようになります。

建設キャリアアップシステムとは?メリット・デメリットなどを紹介

②定着促進のための取り組み

2014年8月、国土交通省は「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を策定しました。これ以降、国と企業が一体となって、女性の採用・定着に向けて取り組んでいます。しかし、そのなかで「定着率」に課題があることが判明しました。

そこで、2020年には「女性の定着促進に向けた建設産業行動計画」が策定され、以下の3つの観点において対策が進められてきました。

●働き続けられるための環境整備を進める
●女性に選ばれる建設産業を目指す
●建設産業で働く女性を応援する取り組みを全国に根付かせる

具体的には、次のような対策が実施されています。

建設業の意識改革
(女性定着に関する理解の促進)
・女性活躍のためには、男女が平等に家事・育児に参画する考え方が前提
・部下の育児休業の取得を、管理職の人事評価に反映させるなどの取り組みを推進
働きがいと働きやすさが両立できる環境整備 ・短時間勤務制、フレックスタイム制、テレワーク、ワークシェアリングなどができる環境整備
・妊娠・育児中の一時的な配置転換
・企業内保育所など託児サポートなど
労働環境の整備 Mixed Realityの略で、現実と仮想空間を融合させる技術のこと。
たとえば施工手順を現場に投影し、危険箇所を可視化しながら安全に施工を進められる。
ICT建機 ・現場のトイレ・更衣室などの整備
・女性に配慮した作業服や保護具・工具などの開発・導入促進
・ICTを活用しつつ朝礼を昼礼に変更するなど、柔軟な現場運営の工夫
・管理職や現場従事者向けの、女性との適切な接し方に関する講習の実施(ハラスメントの未然防止、女性を特別扱いしないことなど)
・ワークライフバランスへの理解促進に向けた啓発 など
参考:女性の定着促進に向けた建設産業行動計画|国土交通省

③鹿児島県の建設ディレクター導入促進助成

鹿児島県では、新たな職域「建設ディレクター」を創設する建設関連会社に対し、人材育成・定着を目的とした助成を行っています。

「建設ディレクター」とは、ITとコミュニケーションスキルを活用しながら建設現場を支援する新しい職域で、若手・女性人材が活躍・定着しやすい業務です。

この鹿児島県の助成制度では、建設業に常勤する事業主や役員、従業員が「建設ディレクター育成講座」を受けるために必要な受講料に対して、助成金を提供しています。

助成制度があることで、企業は新たな職域で活躍する人材確保に向けて動きやすくなるといえます。

参考:鹿児島県「建設ディレクター導入促進助成」について|一般社団法人建設ディレクター協会

④大分県の女性活躍推進事業(BLOCKS)

大分県では、令和2年より建設産業女性活躍加速化促進事業「BLOCKS」に取り組んでいます。以下のような取り組みを実施しながら、女性が活躍できる土壌づくりを進めています。

●若手・女性が活躍できる環境構築や、職域づくりの事例を紹介するセミナー実施
●専門知識を学ぶためのスキルアップセミナー実施と、成果発表会
●女性向け交流会(コミュニティ構築の場)の実施

参考:BLOCKS

⑤えるぼし認定・くるみん認定

厚生労働省が実施する、「えるぼし認定」「くるみん認定」という認定制度があります。

「えるぼし認定」とは、女性活躍を推進している優れた企業を、厚生労働大臣が認定する制度です。また、「くるみん認定」は、「子育てサポート企業」として厚生労働大臣が認定する制度を指します。

これらの認定制度は、公共工事に活用されています。えるぼし認定企業・くるみん認定企業は、公共工事の総合評価落札方式、あるいは企画競争において、加点評価を受けることができます。つまり、入札で有利になります。

この事例から、企業が競争優位性を維持するためには「女性活躍」「子育てサポート」は不可欠なキーワードとなっていることがうかがえます。

参考:えるぼし認定企業・くるみん認定企業などが 公共調達で有利になります!|厚生労働省

5.建設業で女性が活躍できる職種

ここからは、建設業で女性が活躍できる職種を具体的に見ていきましょう。

①建設ディレクター

建設ディレクターとは、以下の業務を中心に、現場の技術者や技能者を後方支援する職種です。

●書類作成
●ICT業務(ドローン測量など)

現在、建設ディレクターに従事している人の数は約900名で、そのうち7割前後が若い女性となっています。

ITとコミュニケーションスキルを活用し、地元の建設関連会社でやりがいのある仕事に就くことができれば、職を求める若い女性の都市部への流出を食い止められます。

また、仕事を通してスキルが身につくので、出産・育児などブランクを経ても適正な処遇で仕事復帰しやすくなります。

建設ディレクターとは?建設業に必要な理由やメリット、事例を紹介

②建築士

建築士も、女性の活躍事例が多い職種です。

家事・子育てなどの経験を生かした細やかな視点・配慮で空間設計ができることから、依頼者側からの評価が高い傾向にあるといわれています。

またゼネコンなどでは分業化が進んでいるため、仕事と家庭を両立させながら、やりがいのある仕事を続けやすい、といった点も挙げられます。

③CADオペレーター

CADオペレーターは設計士の指示を受けながら、CADソフトウェアを使いながら設計図を修正・調整する仕事です。

建設業務のなかで、もっともリモートワークに移行しやすい職種だといわれていて、ワークライフバランスを重視する女性から人気の職種です。

④左官職人

左官職人の領域でも、女性活躍に注目が集まっています。

左官職人は建物の外壁・内壁などに漆喰やセメントモルタルを塗っていくため、体力勝負の仕事ではあるものの、「スピード」よりも「仕上がり・質」が重視される仕事です。

そこで、仕事内容に対する細やかな気遣い・配慮が重宝され、依頼者から女性の職人が評価される場合も見られます。

また、手に職をつけられる仕事なので、出産・育児などでブランクを経ても復帰しやすい職種だといえます。

6.建設業における女性活躍・定着のための実践事例

ここからは、建設業における女性活躍・定着のための実践事例を紹介します。

①男性の意識改革とワークライフバランス促進|大成建設株式会社

大手ゼネコンの大成建設株式会社では、「誰もが働きやすい職場を実現するためには、男性側の理解や当事者意識も必要」と考え、男性社員も巻き込んだワークライフバランス推進に積極的に取り組んでいます。

具体的には、主に「男性の育休取得」と「介護離職防止」に注力し、男性の育休取得率は100%を達成しています。

ほかにも以下のような取り組みを実施することで、男性も女性もともに働きやすい職場環境づくりに努めています。

●育休中復職後の、仕事と家庭の両立に対する心構えを学ぶセミナーの実施
●女性を部下に持つ上司への研修実施
●企業主導型保育所との連携
●ベビーシッター割引券の配付

また、「介護」に関しても手厚いサポートが整備されています。介護も担っている従業員に対し、本人、上司、人事担当者で三者面談を行い、仕事との両立についてアドバイスする場を設けるなどのサポートを提供しています。

これらの取り組みの結果、女性だけではなく男性も、ワークライフバランスを自分事としてとらえるきっかけとなっているそうです。

参考:女性定着促進に向けたアクションプログラム|一般財団法人建設業振興基金

②カンガルー出勤の導入|三承工業株式会社

住宅メーカーの三承工業株式会社では、子連れ出勤制度「カンガルー出勤」を導入しています。この制度は、 「妊娠や出産で働くことを諦めてほしくない」との考えから、2013年より始まったそうです。

子供と一緒に出勤し、子供たちは親の目の届くところや、社内のキッズルームなどで過ごします。親が会議などで席を外す際には、チャイルドマインダー(保育関連の民間資格)の資格を持った社員などが見守ります。

男性社員も、妻の体調不良時や2人目、3人目の出産時などにこの制度を利用。また、社長自らも子供をあやしながら仕事に取り組み、「皆で育児に参画していこう」と社員全体に対して啓発を行いました。その結果、「温かく受け入れ、自然に子供と接する」という社内風土が醸成され、現在は5人に1人がこの制度を利用するようになっています。

参考:女性定着促進に向けたアクションプログラム|一般財団法人建設業振興基金

7.まとめ

本記事では、建設業における女性活躍の重要性について解説してきました。建設業では女性活躍の取り組みが様々な角度から行われています。たとえば、日本建設業連合会では、建設業で働くすべての女性の愛称を「けんせつ小町」と愛称を付け、女性が活躍しやすい環境を目指した取り組みも行っています。

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企業において職場で女性に長く、快適に働いてもらうためには、以下のような取り組みが必要です。

●「女性らしさ」など、性別による決めつけをしない
●特別扱いをしない
●情報共有を透明化して、皆が同じ情報にいつでもアクセスできるようにする

このうち、「情報共有の透明化」に関しては、ITツールを積極的に活用することで、若い世代にとってもストレスを感じることなく、職場の業務効率化を推進していくことができます。

建設業で働き方改革を実施する際は、建設業のコミュニケーション円滑化ができる施工管理アプリ「現場クラウドConne」などの活用も、ぜひご検討ください。


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