建設業法は、建設業の健全な発達を促進し、公共の福祉の増進に寄与することを目的に制定され、時代の変化に応じて改正されています。
この記事では、2020年10月および2023年1月に施行された、建設業法における最新の改正点をわかりやすく解説します。日々の業務の現場をスムーズに改善していけるよう、具体的なポイントや事例も紹介するので、参考にしてください。
1.【2020年10月施行】建設業法改正の概要とポイント
まずは、2020年10月に施行された建設業法改正のポイントを紹介します。
①働き方改革の促進
2019年6月、建設業法および入契法の一部を改正する法律(建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案(令和元年法律第三十号))が交付されました。
施行は2019年から2021年にかけて行われ、昨今の「働き方改革」や、建設業における人手不足の課題が踏まえられています。ここでは2020年10月に施行された3つのポイントを紹介します。
1)長時間労働の是正
これまで公共工事などの現場では、短い工期での完工を強いられる場合もあり、長時間労働が恒常化していました。
しかし法改正により、必要とされる期間よりも著しく短い工期で請負契約を締結することが禁止されました。違反した場合には、勧告が行われることもあります。
そのため、公共工事を発注する側の建設業者には、以下が求められるようになりました。
● 工程の詳細を明らかにすること
● 準備を含めた日数の見積もりを提出すること
2)工期の確保や施工時期の標準化
受注者・発注者いずれにも、十分な工期の確保や、施工時期の標準化が求められるようになりました。公共工事には閑散期と繁忙期があり、繁忙期には人材不足が顕著になり、工事従事者は休暇取得が難しく、長時間労働を強いられる傾向が見られるからです。
そのため工事量を年度内で均等に分配することで、経営を安定させ、人材・資材の使用を効率化する取り組みが重要です。
年度内に施工・支払いが完了しない場合は、繰越手続きを早急に行うことで、受注者は工事の完了時期を早期に再調整し、余裕を持って人材・資材を管理できるでしょう。
3)処遇改善
元請から下請、さらに二次下請に業務を委託する場合、労務費(施工に直接関わる職人の人件費)相当分を現金払いすることで、下請業者から労働者への支払いの滞りをなくすよう、求められています。
出典:建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律
また社会保険への加入が要件化され、社会保険に未加入の建設業者に対して、建設業の許可を認めない仕組みが構築されました。
②生産性の向上
生産性の向上も法改正において重要なポイントです。建設業では人手不足が深刻化しており、さらに高齢化と若手の人材不足も長期的な課題として挙げられます。
そこで法改正によって、建設関連企業が限りある人材を有効活用し、生産性向上を図ることができるよう、後押しする狙いがあります。
1)監理技術者の専任緩和
一定規模の工事を請け負う際は、現場に「監理技術者」を配置するよう義務付けられていました。
しかし法改正によって、監理技術者を補佐する資格を有する者を配置すれば、監理技術者は複数の現場を兼任できるようになりました。
2)主任技術者の設置義務を緩和
下請の主任技術者の設置義務も緩和されています。
これまでは下請でも主任技術者が必要でした。しかし法改正によって、元請が注文者の承諾と下請業者の合意を得られれば、一次下請の業者が一定の指導監督的な実務の経験を有する者を専任配置することで、二次下請で主任技術者の配置は不要となりました。
出典:建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律
3)資材メーカーへ勧告できる仕組みの構築
従来、建設資材メーカーに起因する不具合が生じた場合、許可行政庁(国土交通省や都道府県)は建設業者にしか、再発防止の指示を出せませんでした。
しかし今後は、建設資材メーカーに対しても再発防止の勧告ができるように変更され、建設業者の責任が緩和されました。
出典:建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律
③持続可能な事業環境の確保
改正後は、持続可能な事業環境の確保も求められています。
1)経営業務管理責任者に関する規制の合理化
経営業務管理責任者に関する規制の合理化が進められています。
これまで建設業許可を得るには、実務経験5年以上を保有する役員の就任が必要でした。しかし「5年」という規制がなくなり、事業者全体として適切な経営管理責任体制を有していれば経営能力があると見なされ、許可されるようになりました。
2)円滑な事業承継制度の創設
円滑な事業承継制度も創設されています。
従来、合併や事業譲渡をする場合、消滅した会社の建設業許可は、次の会社へ引き継がれませんでした。そのため改めて取得し直す必要があり、空白期間が生まれていました。
しかし法改正で、事前に手続きを踏めば空白期間を作ることなく、事業承継をできるようになっています。
④その他:下請業者が元請の違反を通報した際、下請業者が不利に取り扱われることを禁止
改正後、下請け業者が元請による違反を通報しても、下請業者が不利に取り扱われることが禁止されています。
下請業者は立場が弱く、「工事請負代金を不当に低く設定される」「支払い期日が遅延する」といった、元請による違法行為に遭っても、仕事を受注せざるを得ませんでした。
しかし改正後は、下請業者が違法行為を行政庁に知らせた場合、「元請は、取引上の地位を不当に利用して、下請業者を不利に扱ってはならない」という趣旨の規定が定められました。
2. 【2023年1月施行】建設業法改正の概要
続いて、2022年11月に「建設業法施行令の一部を改正する政令」が閣議決定され、2023年1月より施行された内容をお伝えします。
ポイントは、金額要件の見直しです。建設業における担い手の確保・育成を図るため、工事請負代金の見直しなどが行われています。
①概要
法改正後の金額要件は、次表のとおりです。人手不足や工事費の上昇を背景に、規制が緩和されました。
改正前 | 改正後 | |
特定建設業の許可・監理技術者の配置・施工体制台帳の作成を要する下請代金額の下限 | 4000万円 (6000万円) |
4500万円 (7000万円) |
主任技術者及び監理技術者の専任を要する請負代金額の下限 | 3500万円 (7000万円) |
4000万円 (8000万円) |
特定専門工事の下請代金額の上限 | 3500万円 | 4000万円 |
参考:「建設業法施行令の一部を改正する政令」を閣議決定|国土交通省
3. 建設業で生産性向上や働き方改革につながった事例
直近の法改正のポイントを見ると、いま、建設関連企業には働き方改革や生産性向上が強く求められているといえます。
ここでは、建設業で現場改革に成功している3つの事例を紹介します。
①特例監理技術者の制度をきっかけにクラウドを導入|金杉建設株式会社
埼玉県の総合建設会社である金杉建設株式会社では、特例監理技術者の制度(公共工事において、複数の現場を担当する制度)を機に情報共有の方法を見直し、建設業向けの情報共有アプリ 「Conne」を導入しました。
クラウドを利用したアプリ内で、現場単位での情報共有スペースを設け、現場関係者や管理職、現場ごとの協力会社がアクセスできるよう設定。
結果として、メールでの報告や書類提出に伴う非効率な作業や、報告のムラが解消され、生産性の向上に成功しています。
②情報の可視化で主体性が向上|尾崎建設株式会社
高知県の建設会社である尾崎建設株式会社では、社内コミュニケーションと情報共有の不足を解決するために、建設業向けの情報共有アプリ 「Conne」を導入。全社員がスマートフォンやタブレットで、各現場の日程や段取りなど、必要な情報を共有できる環境を整えました。
この取り組みにより、情報が平等に共有されることで、社員の主体性とスピード感が向上し、業務の無駄削減と、チームワークの強化が実現。
情報の可視化が、社員全員の積極的な参加と協力を促し、より効率的で生産的な職場環境を生み出した事例です。
③情報共有の自動化で対応スピードが改善|有限会社永田鋼管工業
配管の製作・取付を手掛ける鹿児島県の永田鋼管工業は、社長からの指示待ちの体制を改善するために、建設業向けの情報共有アプリ 「Conne」を導入。社内の情報共有の円滑化・透明化を実現しました。
この取り組みにより、社員を起点とした自発的・自律的な情報共有が促進され、社内コミュニケーションが見える化されました。その結果、社員が主体的に動けるようになり、業務の対応スピードが大幅に向上。
この事例は、情報共有の自動化が、業務効率とチームワークの向上に直結することを示しています。
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まとめ
この記事では、建設業法における最新の改正ポイントをご紹介しました。
建設業界では工事需要が増加しているにもかかわらず、長期的な人手不足が続いています。働き方改革と生産性向上を早急に進め、働き手一人ひとりにとって快適な労働環境を提供する必要があります。
事例で紹介したとおり、以下の取り組みも生産性向上のために非常に重要です。
● 社内の情報共有を透明化・円滑する
● 指示待ちをなくし、社員一人ひとりが自発的・自律的に動けるようにする
働き方改革、生産性向上への第一歩として、従業員の誰もが使いやすい「情報共有アプリ」を導入し、社内コミュニケーションを改善していきましょう。