建設業では、過酷な労働環境や長時間労働が長らく課題となっています。近年の働き方改革推進の流れを受け、建設業も従来のあり方を見直し、対策を講じることが重要です。

本記事では、建設業における働き方改革の概要や背景、国土交通省による政策パッケージ「建設業働き方改革加速プログラム」、一人親方への影響と対策を詳しく解説します。さらにデジタル化の重要性や、ITを活用した働き方改革の実践事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

1.建設業の働き方改革とは

働き方改革とは、働く人々がそれぞれの事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できることを目的とした改革のことです。働き方改革の推進は、日本国内の雇用の約7割を占める中小企業にも求められています。

働き方改革は2019年から順次実施され、建設業など早急な対応が困難とされる業界には5年間の猶予期間が設けられていました。しかしその猶予期間も終わりを迎え、2024年4月1日から「働き方改革関連法」の改正が建設業にも適用されることとなりました。

なお、人手不足や残業時間の削減など、働き方改革の推進において解決すべき課題は総称して「2024年問題」と呼ばれています。建設業の2024年問題に関して、以下の記事で詳しく解説しているのでぜひご覧ください。

建設業の2024年問題とは?影響や対策をわかりやすく解説

次項では、建設業と関係の深い、働き方改革関連の主な法改正の内容を解説します。

①【2024年4月1日〜】時間外労働の上限規制の適用

まずは、2024年4月1日より適用された「時間外労働の上限規制」について解説します。

時間外労働の上限規制とは、時間外労働(残業時間)を「原則として月45時間・年360時間」以内に抑えなければならない、というルールのことです。

法改正前には、「特別条項付き36協定」を締結して手続きをすると、実質的に残業時間の上限がありませんでした。しかし改正後は、36協定を締結しても「年720時間まで」などの上限が設けられ、上限を超えると6カ⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科される恐れがあります。そのため建設関連会社は、残業時間の削減に向けて取り組まなければなりません。

さらに詳しくは、以下の記事もあわせてぜひご覧ください。

建設業の残業規制は2024年に義務化!罰則の有無も解説【社労士監修】

②【2023年4月1日〜】中小企業の月60時間超の時間外割増賃金引き上げ

続いて、2023年4月1日から適用されている「時間外労働の割増賃金引き上げ」について解説します。

働き方改革関連法の改正により、2023年4月1日から中小企業に対しても、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率50%(以前は25%)が適用されるようになりました。

特別な理由があって、労使合意のうえ月60時間以上の残業を従業員に求める場合には、人件費を以前よりも高く見積もっておく必要があります。


出典:月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省

2.建設業で働き方改革が求められている理由

建設業にはさまざまな課題があり、各企業は解決に向けて取り組みを進める必要があります。ここでは、建設業で働き方改革が求められている理由として、3つの課題を解説します。

①長時間労働の慢性化

建設業では、長時間労働が根強く続いています。

厚生労働省のデータによると、2021年の建設業における年間総実労働時間は、全産業の平均よりも90時間多く、過去20年間の労働時間の減少幅も他産業に比べて少なくなっています。

建設業の長時間労働を是正するには、人手不足の解消や業務効率化、休日の確保に向けた取り組みが急務だといえます。


出典:建設業を巡る現状と課題|国土交通省

②高齢化と若手の人材不足

建設業に従事する人の高齢化が進行しており、このままでは事業や技術の継承が困難になるのではないか、と懸念されています。国土交通省のデータを確認すると、2022年時点で29歳以下の建設業従事者は全体の約1割となっています。

これは、建設業の厳しいイメージが若年層に敬遠される要因となっているためと考えられます。その結果、若手人材の不足が続き、高齢の労働者に業務負荷が集中する状況が生じているといえます。


出典:建設業を巡る現状と課題|国土交通省

③週休2日を確保できない

週休2日の確保も大きな課題となっています。

国土交通省の調査によれば、建設業の平均的な休日取得状況は「4週6休程度」が最も多く、週休2日には達していないのが実態です。

ほかの産業では定着している週休2日も建設業では当たり前ではなく、工期の日数不足で休日出勤が強いられていると考えられます。


出典:建設業における働き方改革|国土交通省

3.国土交通省による「建設業働き方改革加速プログラム」とは

国土交通省は、建設業のさまざまな課題を解決して働き方改革を加速させることを目的に、政策パッケージ「建設業働き方改革加速プログラム」を策定しました。

この政策パッケージには、以下の3つの分野が含まれます。

● 長時間労働の是正
● 給与・社会保険
● 生産性向上

それぞれの概要を見ていきましょう。

①長時間労働の是正

1つ目の長時間労働の是正に関する取り組みでは、週休2日制の導入や、適正な工期設定を後押ししています。

具体的には、週休2日制によって休みが増えても日給制の技能者の賃金が減らないよう労務費補正で収入を補填すること、発注工事の特性を踏まえたうえで適正な工期を設定するよう促しています。

②給与・社会保険の改善

2つ目は、給与・社会保険の改善に向けた取り組みです。

技能・経験にふさわしい処遇を実現するために、国土交通省は「建設キャリアアップシステム」を導入しています。

建設キャリアアップシステムとは、現場の就業履歴やスキル、資格などの情報を横断的に登録・蓄積して活用する仕組みのことです。技能者を4段階で評価するため、能力や経験に応じた処遇改善につながりやすくなります。またレベルアップを見通せるようになり、若手人材にとって明確なキャリアパスを描きやすくなるでしょう。

建設キャリアアップシステムの詳細については、以下の記事もあわせてご覧ください。

建設キャリアアップシステムとは?メリット・デメリットなどを紹介

社会保険に未加入の建設会社に対しては、建設業の許可や更新を認めないようにする仕組みも構築されました。

③生産性向上

3つ目は、生産性向上に関する項目です。

ICT活用による生産性向上を推奨する目的で、国土交通省はICT技術を学び直す「建設リカレント教育」を推奨・支援しています。また、書類作成事務の作業負担を減らすために、各種申請手続きの電子化推進にも取り組んでいます。

さらに、技能者の労働力不足を見据え、限られた人材を効率的に活用できるよう、現場技術者に関する配置要件の合理化に向けた検討も進められています。


建設業の働き方改革につながる施工管理アプリ『現場クラウドConne』はこちらから!

4.一人親方と働き方改革

建設業の働き方改革は、一人親方にはどのような影響を与えるのでしょうか。国土交通省によると、2019年における建設業の技能者全体で一人親方の割合は15.6%、およそ51万人と推計されています。

ここでは、働き方改革の規制逃れを目的とした「偽装一人親方問題」とそのリスク、解決策について解説します。

参考:第1回 建設業の一人親方問題に関する検討会|国土交通省

①偽装一人親方問題

「偽装一人親方問題」とは、本来は労働者(従業員)として雇用すべき技能者を独立させ、偽装請負の「一人親方化」が加速する問題のことです。

働き方改革関連法が施行されるなか、建設会社の立場では、技能者を従業員として雇用したままだと、社会保険や割増賃金などの負担が増えることになります。そこで建設会社が規制を逃れるために、労働者へ一人親方になるよう促し、請負契約を結びながらも、実質的には雇用する場合と同じ環境で働かせている状況が存在します。

一人親方は労働基準法の適用外となるため、働き方改革による規制の影響を受けません。請負契約は成果物に対して報酬を支払う形態となるため、残業代を支払う必要もなくなります。さらに、有給を取得させる必要もありません。

しかし一人親方のなかには、「雇用されている状態と就業形態がほとんど変わらないがゆえに、自分自身が一人親方になったと認識していない」といったケースもあると、国土交通省は懸念しています。

②偽装一人親方問題のリスク

偽装一人親方問題を企業が放置していると、企業側、技能者側の双方にリスクが生じます。

次表は、「就労」「契約」「社会保険」「税金」という4つの観点でのリスクをまとめたものです。

事業者側のリスク 一人親方のリスク
就労 偽装請負のため労働基準法違反となる。 長時間労働、無給労働、有給がないなど、適正な待遇が受けられない。
契約 偽装請負は違法のため、罰則を受けたり、建設業の許可が取り消されたりする恐れがある。 建設業の許可を受けず下請契約を結んでいる場合、工事の金額によっては建設業法違反となる。
社会保険 雇用関係のない請負契約でも、実質的に労働者(従業員)として指揮命令として働かせていて、労働者性が認められると社会保険に加入させる義務が生じる。
しかし対応していなければ法律違反となり、企業はさかのぼって保険料を納付する必要がある。
万が一、労災事故に遭った場合、治療費を自己負担しなければならない。
税金 実質的に企業に雇用された状態の一人親方への報酬は「給与」とみなされる可能性が高く、所得税法や法人税法などに違反することになる。 確定申告を怠っている場合、所得税法違反となる。

③偽装一人親方問題の解決法

偽装一人親方問題が懸念される状況を受け、国土交通省は下請指導ガイドラインを改訂し、一人親方について次のように定義しました。

<一人親方の定義>
請け負った工事に対し、自らの技能と責任で完成させることができる現場作業に従事する個人事業主

出典:下請指導ガイドラインの改訂で追加する内容|国土交通省

この定義に外れる一人親方に仕事を依頼している場合、雇用契約を締結し、社会保険に加入させるよう、国土交通省は建設会社に対して促しています。

また、国土交通省は技能者向けのパンフレットを作成し、一人親方と社員の違いや、現在の働き方への理解を深められるよう、自己診断チェックリストなども配布しています。

参考:クリーンな雇用・クリーンな請負の建設業界|国土交通省

なお、技能者に仕事を依頼する建設関連会社の立場でリスクを回避するには、自社で技能者を雇用する力を持つことも重要です。働き方改革の推進によって生産性向上を図りつつ、「偽装一人親方問題」に抵触しない体制を整えていきましょう。

建設業界全体で働き方を見直す必要に迫られているいま、働き方改革を進めていくにはどのようなポイントから着手すべきなのでしょうか。次章で、その実践方法を紹介します。

5.建設業で働き方改革を推進するにはデジタル化が必須

建設業で働き方改革を推進するには、ITツールを活用したデジタル化が必須です。

ひと口に「デジタル化」といってもさまざまな手段が考えられます。一例として建設業向けのITツールのひとつ「施工管理アプリ」を活用すると、現場で必要な写真や資料、スケジュールなどを一元管理して、関係者間でスムーズに情報共有ができるようになります。従来はホワイトボードや紙で行っていた人員配置や工程表の共有、メールや電話での連絡が一つのアプリにまとまるため、生産性向上の一助となり得るでしょう。

その結果、残業時間が削減されると働き方改革に向けて一歩前進できます。

無料版あり|建設現場で活躍する代表的な施工管理アプリ7選を徹底比較

6.施工管理アプリを使った働き方改革の事例

ここで、施工管理アプリを活用することで働き方改革を進めている、建設関連会社の事例を2つご紹介します。

①スムーズなコミュニケーションで現場管理を効率化|大工の内野

建築・リフォーム業の「大工の内野」では、施工管理アプリ「Conne」を導入して現場のコミュニケーションを大幅に改善し、働き方改革を推進しています。

導入前は、紙や電話での報告・連絡がメインで、情報伝達に時間がかかり、連絡漏れやコミュニケーションの行き違いなどの課題がありました。

しかしアプリ導入後は、現場の技能者や協力会社などとリアルタイムで情報共有が可能となり、現場と本社間の連絡がスムーズに。現場管理の効率性が向上してより迅速に対応でき、受注が増えてもしっかりと対応できる体制が整ったそうです。


>>大工の内野様の導入事例はこちらから

②社内の情報共有が快適に|株式会社富久

土木工事業、とび、管工業、一般廃棄物収集運搬業などを行っている「株式会社富久」も施工管理アプリ「Conne」を導入しています。

株式会社富久では以前から、社内コミュニケーションの改善を目的にチャットツールを導入していました。しかし「スケジュール共有の機能がない」「既読状況が確認できない」「結局予定表を確認しに帰社しなくてはならない」など、物足りなさを感じていたそうです。

そこで「Conne」を導入し、メッセージのやり取りや、スケジュール機能を利用した情報共有を一つのアプリにまとめました。現場の報告や、作業予定を社内メンバーにあらかじめ共有できるようになったので、帰社後の相談時間の削減に成功。導入前と比べ、現場業務に集中できるようになったといいます。


>>株式会社富久様の導入事例はこちらから

7.まとめ

本記事では、建設業で働き方改革が急務となっている理由や、働き方改革を進めないまま放置していると、経営リスクとなり得ることも解説しました。

建設業で働き方改革を一歩ずつ進めていくには、デジタル化が必須です。ここで重要なポイントは、「ITを導入して業務のデジタル化を進めること」が目的ではない点です。「会社に関わる誰もが、スムーズに仕事が終わり早く帰れて、休日も確保できるようにするための手段」といった視点を持つと良いでしょう。

職場のムリ・ムダ・ムラをできる限りなくして、関係者がより気持ち良く働けるよう、改革への一歩を踏み出してみましょう。


建設業の働き方改革につながる施工管理アプリ『現場クラウドConne』はこちらから!

SNSでシェア